調剤業務は正確さが何よりも重要です。薬剤師は日々、慎重にピッキングを行なっているでしょう。しかし、ヒューマンエラーが起きてしまうことも現実です。経験値が浅い薬剤師がいる場合や、人員が少ない薬局は工夫する必要があります。ここでは、ミスを防ぐためのコツを紹介しているので現場で取り入れてみましょう。
調剤ミスを起こしてしまう事例
まず、実際に起きやすいミスを把握しましょう。また、自身の動きを振り返り、ミスの危険性が無いか改めることも重要です。
調剤過誤
薬剤師の誤った調剤により、患者の健康被害が発生する事故です。ピッキングミスや、患者への説明・指導不足により起きます。定められた業務を怠ることや、不注意による確認不足が根本的な原因です。混雑していても、業務の省略をしないようにしましょう。
ヒヤリ・ハット事例
交付前や服薬前の段階で、ミスに気付くことがあるでしょう。健康被害は発生しないものの、起きてはならない事例です。医療現場はヒヤリ・ハットをとくに意識しましょう。
小さなミスが重なることで、重大な事故を生みます。ピッキングの段階で、確実な業務をこなすことが必要です。また、監査担当者と交付担当者も、合っているという思い込みを無くして確認しましょう。
ヒヤリ・ハット事例①名称類似薬の取り違え
医療現場において、名称が類似した薬剤の取り違えは重大な問題となっています。実際に起きた事例をいくつか紹介しましょう。
ある薬局では、ベポタスチンベシル酸塩錠10mg「タナベ」を処方された患者に、誤ってベタヒスチンメシル酸塩錠12mg「日医工P」が交付されました。患者が症状改善のないことを訴え、間違いが発覚したのですが、この背景には調剤時に薬剤師が一人だけだったことがあります。
別の事例では、ニュープロパッチ18mgを処方すべき患者にイクセロンパッチ18mgが処方され、監査でも見逃されました。患者は違和感を覚えながらも14日間使用し、歩行困難になるほどの体調変化が生じてしまったのです。最終的に、患者自身がいつもと違う薬が処方されていたことに気付き、間違いが判明しました。
さらに、ユリノーム錠50mg(尿酸排泄薬)とユリーフ錠4mg(排尿障害治療薬)の取り違えも報告されています。薬剤部で誤って調剤され、鑑査者も気付かずに患者に渡されました。後日、患者が入院した際に病棟薬剤師による持参薬確認で間違いが発覚しています。
これらの事例から、名称類似薬の取り違えを防ぐためには、薬剤棚に注意喚起の掲示をすることが効果的です。また、薬剤師が一人しかいない場合は、事務員を含めた複数人での確認プロセスを導入することが望ましいでしょう。
ヒヤリ・ハット事例②外観が類似する分包品の取り違え
薬剤の外観類似による取り違えも発生しています。
ある事例では、小児患者へのレボセチリジン塩酸塩シロップ用0.5%の処方で、0.25g/包を20包用意すべきところ、誤って0.5g/包を20包用意しました。鑑査担当者もこれを見逃し、患児に2倍量の薬剤が交付されてしまったのです。この背景には、供給不足により0.5g/包が新たに採用されたこと、また0.25g/包と0.5g/包の裏面デザインが同一であったことがあります。
別の事例として、ホスリボン配合顆粒とホスレノール顆粒の取り違えが報告されています。無機リン値が1.9mg/dLまで低下していた患者に、ホスリボン配合顆粒10包分2(朝、夕)が処方されました。しかし、薬袋には誤ってホスレノール顆粒分包250mgが入れられていたのです。
看護師も気づかず、患者は2日間(計4回)、ホスリボンの代わりにホスレノールを服用しました。この取り違えは、ホスリボンとホスレノールの名称が類似していること、また同じアルミ包装で外観が似ていることが原因です。
これらの事例から、新規薬剤採用時には全スタッフへの情報周知が重要であることが明らかになりました。また、外観が類似する薬剤については、識別しやすいデザインの採用や調剤棚への注意喚起表示の導入が有効です。
ヒヤリ・ハット事例③規格変更時の計数間違い
薬剤の規格変更時における計数間違いの事例も報告されています。
ある事例では、カルボシステイン錠500mgの1回1錠1日3回7日分の処方が、在庫不足のため250mg錠の1回2錠1日3回7日分に変更されました。問い合わせた薬剤師から変更内容を聞いた入力者は、レセプトコンピュータに正しく入力しましたが、調製時に元の用法を見て250mg錠を21錠しか取り揃えなかったのです。幸い、鑑査者が錠数の不足に気づき、事なきを得ました。
別の事例では、ピモペンダン錠1.25mg「TE」2錠から2.5mg「TE」1錠への変更時に、2.5mg錠を誤って2錠調剤しています。これは処方箋の「2錠」という記載に引きずられたことが原因です。
これらの事例の背景には、処方変更時の情報共有手順が徹底されていなかったことがあります。改善策として、変更内容を処方箋の備考欄に記載し、速やかに全職員と共有することが不可欠です。また、変更後の薬剤規格や錠数を明記した指示書の活用も効果的でしょう。
鑑査時には処方内容、調製薬剤、薬袋、薬剤情報提供書などを総合的に確認することが重要です。これらの対策により、処方変更時のリスクを最小限に抑えることができます。
調剤ミスをしてしまう原因
ここでは、ミスが発生する具体的な原因を解説します。薬局ごとに課題を見極めて、対策を考えるヒントにしましょう。
薬剤師のコンディション
薬剤師は、長時間動きまわるうえ集中力が必要です。疲労が溜まることにより、業務精度はどうしても落ちてしまいます。また、体調不良になることもあるでしょう。適度なタイミングで休憩時間をとり、残業を減らす工夫が必要です。
さらに、失敗が許されないプレッシャーにより、大きなストレスを感じています。メンタルコントロールが難しくなると、冷静な判断が出来ません。休日はしっかりリフレッシュすることが重要です。
慣れによる油断
業務に慣れてくると、気づかないうちに油断するのが人間です。思い込みや自分の癖が出やすくなり、慎重さに欠けてしまいます。
また、慣れたことによりスピードを意識すると、今までの動きを省略することもあるでしょう。重要な確認箇所を見落とし、ミスが発生します。
知識不足
医療技術は常に発展しており、従事者は最新情報に敏感になるべきです。知識をアップデートしないことで、誤った判断をすることがあります。
また、分からないことを、そのまま見過ごすことも良くありません。新人・ベテラン問わず、新しいことを学び続ける姿勢は重要です。
環境要因
見にくい調剤棚や散らかった作業スペースなど、環境が整っていないこともミスに繋がります。集中しにくいので、薬品名や数量を間違えることもあるでしょう。
また、パッケージが似ている薬品をそばに配置すると危険です。調剤棚をラベルで分かりやすくして、50音順など規則的に並べると分かりやすいでしょう。さらに、整理整頓や掃除を、同時進行で行うことも重要です。スッキリした空間を常に意識しましょう。
スペースが狭い
作業空間の広さには限りがありますが、薬剤師同士がぶつかりそうな状態は危険です。それぞれが早く動くことを意識しているので、薬品の混入や落下の可能性が高まります。出来る限り邪魔なものは置かず、動線確保をしましょう。
機器の操作ミス
調剤には機器を使用しますが、操作に不慣れな場合はミスが発生しやすいでしょう。簡単な操作でも、経験の浅い薬剤師には注意が必要です。
また、操作が正しくても、取り忘れなどが発生してはなりません。機器を使用しているからといって、信頼しすぎて油断しないことも大切です。
薬剤師の育成が不十分
スキルにバラつきがあると、慣れている薬剤師に負荷がかかります。そして、疲れやストレスが溜まりミスを起こしかねません。そのため、全員が一定のスキルを取得する必要があります。
しかし、育成の時間が取れず、充分なスキルを身につけられないこともあるでしょう。また、マニュアルを定めていないこともあります。新人薬剤師が成長出来ない環境は、悪循環になり危険です。
人員・コミュニケーション不足
多くの薬局が少ない人員で業務を進めています。しかし、速やかな対応を求められるため、常にマルチタスクが必要です。業務量がとても多くなるので、体力維持が難しくなるでしょう。
1人にかかる負担が大きくなるごとに、ミスをする可能性が高くなります。また、薬剤師同士でコミュニケーションを取れないことも問題です。報告や声掛けを怠ることで、勘違いや確認漏れが発生するかもしれません。人員が少ない場合は、コミュニケーション能力がとくに必要です。
調剤での見逃しを防ぐコツ
ここでは調剤を正確に行うコツを紹介します。取り入れられることは、すぐに実践しましょう。
電子薬歴確認
電子薬歴はレセコンと連動させることで、過去の調剤情報を記録出来るシステムです。副作用や指導歴まで分かるので、新たな処方箋と同時確認しましょう。また、前回の処方と異なる場合、自動的に通知がされます。規格など細かい箇所の見逃しを防ぐので安心です。
マニュアル改定
マニュアルは、正確な業務を効率的に進めるために存在します。そのため、無駄な工程の有無を確認しましょう。調剤業務は、覚えることが膨大にあるので簡略化することも重要です。また、人員の変化や新しい技術の導入など、環境に応じて見直しましょう。
ミス発生後の対策
ミスが起きた際は、原因究明と対策が必要です。いつ、誰が、どのような状況で、何をしたのかを整理しましょう。そこから、改めるべき行動やマニュアルを考えます。対策により決められたことは、全員で徹底しましょう。
また、上位者は個々の理解度を確認すると安心です。すべきことの理由まで答えられると良いでしょう。
また、ミスを起こした従業員を強く責めないことも重要です。プレッシャーになりすぎて再発することもあります。さらに、恐怖心からミスを報告しない事態にもなりかねません。患者の命を預かる重大さを実感し、慎重になってもらうことが第一です。
聞く・教える
医療現場はさまざまな知識が必要であり、ときにわからないことも生じるでしょう。その際、必ず聞くことが重要です。積極的に知識を身につけなければ、正しい判断が出来なくなります。
また、上位者やベテラン薬剤師は、育成を業務の一環と考えましょう。スキルの高い薬剤師が分かりやすく説明することで、後輩のスキルは上がります。
また、聞きやすい雰囲気を作ることも重要です。隙を見つけて、先輩から後輩に声掛けをしてみましょう。聞きたくても遠慮している場合もあるので、積極的なコミュニケーションは効果的です。
疑義照会
処方箋に、不明な点や疑わしい記載があるときは、必ず発行医師に確認しましょう。疑義照会と呼びますが、法律で定められている業務です。
疑義照会を怠り事故が起きた場合、薬剤師は責任を問われるので注意しましょう。疑義照会が必要であるか、最初に確認をすることも重要です。
二者確認
慎重におこなっていても、薬剤師のコンディションによりヒューマンエラーは起きてしまいます。そこで、二者確認を取り入れると確実です。
とくに、種類が多い複雑な処方を優先的にチェックすると良いでしょう。人員に限りがあるので、全てをチェックする必要はありません。リスクになりやすい量や薬品だけを想定し、二者確認のマニュアルを作りましょう。
まとめ
薬剤師の業務量は膨大であり、また難しい知識が必要です。個々のスキルアップが常に求められるでしょう。しかし、人員が足りない薬局が大半であり、一人の負担が大きいことも現実です。あらゆることが原因となり、ミスが起きてしまいます。
まずは、出来ることから対策を始めていきましょう。また、調剤監査支援システムの導入もおすすめです。監査業務を自動化することで、見間違えなどを防ぎます。作業時間短縮にもなるので、混雑しやすい薬局では効果抜群です。業務改善の工夫をしながら、確実な調剤を行なっていきましょう。
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